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私はただの農夫ですよ。
一族の覚えているかぎりの昔から、私どもはこの狭い土地で暮らしてまいりました。ここ北国はゴツゴツした岩山がありまして、そこから小高い丘ですとか、深い森に続いている美しい土地でございます。雪解けの頃になりますと、小川の流れも早くなり、長い冬が訪れますと、一面の雪景色が戻ってまいります。農地や放牧地は谷の森を切り拓いたものでして、そこに三つの岩に囲まれたプリル・ブロディルという小さな村がございます。三兄弟という意味です。 私には三人の兄弟がおりました。兄どもは武勲をたてることに憧れをもっておりました。私の家系は海が好きでございまして、兄どもは質素で平和な暮らしを馬鹿にしておりましてねえ。もうだいぶん前にここを出て行きまして、海岸から船に乗って北のほうに行きました。血に流れている塩が、北の方に呼ばれていったのでございましょう。私がここの土地に呼ばれているのと同じでございます。ときどき、兄どもの噂を耳にしますよ。なんでも海の嵐のように、速く、危険で、とんでもない勢いで戦っているとか。 兄どもの冒険ですとか、遠方の土地での話は、冬の炉辺で語りぐさとなっておりました。家は先祖の代から残っているものでした。私は父の膝の上で、文字と数字を習いましてね。父はどの季節に何を植えたらいいか、どういうときに貯めこんで、どういうときに人に施すか、そういうあたりまえの分別を教えてから死にました。死んだのはかれこれ、5年も前のことです。家には家内と、たったふたりの子供だけ残りまして。息子のほうはもうそれなりに大きくなっておりまして、夜明け前から私と一緒に起きて、家畜の面倒を見られるようになっております。息子が立派に育って所帯を持つのを見届けるのが私の夢でした。 その息子がまだ生きているのか、私にはわかりません。家内も、娘も、どうなったことやら。それは三日前のことでございます、南のほうから野蛮人が大勢でやってきたのです。蓄えの中から余りをやれば、追いやることができるのではないかと、私はそう考えておりました。しかし連中はそういうものには興味がないようで、家内も手を焼いておりました。連中は私をひどく殴りまして、死んだと思ったようで捨て置かれました。連中が私の子供たちを蹴り飛ばしたり、隠れ家から悲鳴が上がったりするのを聞いているほか、私にはなにもできませんでした。それからすぐに目の前がまっくらになったのです。 目を覚ますと空は薄暗く、冷たい雨が降っておりました。灰のなかにまだ燃えさしがちらちらと輝いており、夜空に瞬く星のようにも見えました。家は壊され、礎石のあいだからは炭と化した木材がぱちぱち音を立てておりました。ご先祖さまお許しください。もうここにはなにひとつ残ってはおりません。悪い噂によると、北の国境のほうでは大鴉神の信者という恐ろしい連中が集まって、土地も人もむごい目にあわせているということです。これほどひどいめにあったことはありませんが、遠くの港に見える灯りのように、まだ私にはうっすらと希望がありました。あの野蛮人どもを見つけ出して、邪魔をする連中は皆殺しにし、家族を探して連れ帰るのです。 私はただの農夫ですよ。 |
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